「花を持って、会いにゆく」 、「人生は森の中の一日」と題された2編の詩が、グスタフ・クリムトの絵とともにおさめられています。クリムト、というと、金色の人物を思い浮かべてしまうのですが、花や、風景の絵も素晴らしいのですね。そして、何よりも、この本の主題にぴったり合っています。
著者が「花を持って、会いにゆく」のは、昨年お亡くなりになられた奥様だと思われます。生と死と、形を変えた世界にいる人と向かい合い、語り合おうとする、その心のありようを、墓地への一歩一歩を踏みしめるように一語一語を手繰り寄せて言葉にしてゆく、そのことで、記憶としての死者の居場所を確かめてゆく、その静かで誠実な切実さに心を打たれます。
バックのクリムトの絵は花と風景です、明るい春の日の道すがら、思い出を噛みしめて歩む目に映ってくるかのようです。
長田弘さんのことを、「ねこに未来はない」、「猫がゆく‐サラダの日々」という、2つの物語エッセイで知った後、初めて読んだ詩集が「深呼吸の必要」で、その中でも、「おおきな木」という散文詩はとても印象的でした。以来、彼は多くの木や森についての詩を書いています。木はただ一つの場所に居続けたまま大きく育って葉を繁らせ陰をつくり、森は静けさを湛えて森としてあり続けます。人はどうして木のようになれないのだろう、人はどうすれば森のようにあることができるだろう、と、詩人は、自らに問いかけてきました。
「人生は森の中の一日」で、詩人は、また、ひとり、森に帰ってきました。沈黙に心を澄まし、鳥の声、風のかすかなそよぎに聞き入り、森の静かな豊かさをを自らの生きるべき姿として語る言葉を形にしてゆきます。
クリムトによる森の絵は、木々でありながら、仄かな幻想を漂わせていて、読み手を、森の静寂に身を浸しているような気分に誘ってくれます。