もともと、詩とは、魔術的に、もしくは、アクロバテッィクに言葉を扱うものだとばかり思っていたのですが、長田弘さんの書くものを初めて読んだとき、誠実な言葉こそが詩たりうるのだ、と、考えを新たにしました。そして、彼の言葉は私にとって大切なものになりました。何気ないものに目を凝らし、静けさに耳を傾け、生きる時間を胸いっぱい感受する、そういう心の姿勢を教えてくれます。
著者は、NHKの「論点・視点」という番組に、17 年間にわたり、何ヶ月に1回かのペースで出演してきました。その原稿を中心に、講演や奥様がお亡くなりになったときの悼辞を加え、人々に向けて語りかけた言葉をまとめたのがこの本です。
もしかしたら、今、我々が見失いつつあるのかもしれない、人と人と、または、人が自分と出会う場所や時間、人と人とが交わす言葉、そして、人の思いを形にして人に託す「本」 のありかたを、確かな言葉で思い出させてくれます。
その文章の印象から、明るく、朗らかに、そして流暢に話をされる方なのだろうなあ、というイメージがありました。以前、「視点・論点」で著者が話をしているのを目にしたことがあります。朗らかで、目が楽しげに輝いているのは予想通りだったのですが、思っていたよりは訥々とした語り口でした。でも、改めて考えてみると、そのほうが彼らしいと納得しました。