2010年6月12日土曜日

パット・メセニー・オーケストリオン・ツアー@すみだトリフォニーホール

(注意:ライブのネタ晴らし的な文章も入ってしまうかもしれませんので、これからどこかでオーケストリオンのライブをご覧になるかたはご注意ください(笑))

いやいや、メセニーさん、もの凄かったです。

オーケストリオンというのは、電子的なサンプリングではなく、生の楽器を機械的に操作して演奏する自動演奏装置で、前もってプログラムしたとおりに動くだけでなく、演奏しながら、ギターやピアノなどから、ある程度の指示を出すことができたりするのだそうです。などと語っても、何のことだか通じないでしょうから、詳しくはこちらをご覧ください。

最初、このオーケストリオンをバックにしたパット・メセニーのCDが出たとき、私はかなり気に入ったのですが、レビューなどを見ると賛否両論、という感じでした。否定的な意見としては、これは、メセニー・グループでやっている音楽とあまり変わらないんじゃないの、何で大掛かりに機械なんかでやる必要があるわけ、というようなものが多かったような気がします。

ただ、私がCDを聴いて感じたのは、彼が、その「ユージュアル・メセニー・ミュージック」を新鮮な、充実した気持ちで演奏しているのではないか、ということで、個人的にはそれは嬉しいことだったのでした。

パット・メセニーは多彩な活動をしていますが、ざっくり分けてしまうと、インプロヴァイザーとして、ソロ、オーソドックスなトリオ、他流試合(?)などで、ギター一本で勝負するときと、トータルなサウンドを組み合わせて、カラフルな音楽を構成するときがあります。そして、後者の音楽を行うための、最強のフォーマットが、「パット・メセニー・グループ」だったといってよいかと思います。

ただ、私だけが感じる斜に構えた見方なのかもしれませんが、このグループも、ちょっとマンネリ化してしまっているのかなあ、と、思うことがあります。作曲も担当するライル・メイズはパットのデビュー以来の盟友ですし、彼ら二人とともにプロデュースに携わるスティーブ・ロドビーも、もう 30 年近くのメンバーということになります。パット自身、「おそらく彼らとは一生行動をともにする」というようなことを言っていたインタビューを目にしたことがありますし、そうすると、中核的なメンバーはずっと固定されたままで、大胆なメンバーチェンジを行ってグループの音楽をリフレッシュする、ということはこれからも考えられないのかと思います。

とすると、多彩な楽器(アコースティック・エレクトリックともに)を組み合わせたカラフルな「メセニー・グループ的」なサウンド、というのはこのまま固定されてしまうのかなあ、という気持ちがあったのでした。実は、私は、メセニーがインプロヴァイザーとしてギター一本で勝負したものについて、聴いててしんどいなあ、と思ってしまうことがあり、それよりは、グループによる音楽のほうが好きだったので、それが新鮮味を失ってしまうなら残念だと思うところがあったのでした。そんなときに発表された、この「オーケストリオン」は、メセニーグループ以外でそのカラフルなサウンドを実現することができる、ほとんどはじめてのフォーマットなのではないか、と思えたのです。

ということで、来日コンサートがあって、予定がどうにかなるならばぜひ聴きたい、と思っていたら、ちょうど土曜日にコンサートがある、ということだったので、数ヶ月前にチケットを取りました。その頃、今年度がこんなに忙しくなるとはまだ十分に予測できていなかったので、そんな蛮勇を奮い起こすことができたのですが(笑)。チケット発売日が休日で、発売時間の 10:00 にネットをみたら、もうアクセスが重くなっていて、必死にクリックし続けて、ようやく確保しました。その日の午後にはもう完売になっていました。相変わらずの人気です。

すみだトリフォニーホールは、昨年、エグベルト・ジスモンチのコンサートでも来たことがあります。音が綺麗で、感じがよいホールです。会場につくころには、否が応でも期待は高まってきます。途中、いやに天に向かって携帯電話で写真を撮っている人がいるなあ、と、思ったら、東京マリンタワーを撮っていたのでした(笑)

ちょうど開場時間くらいにホールに着き、中に入るともの凄い熱気です。オーケストリオンと思しきものは、ステージの後ろに、仰々しく布をかけられてそびえたっています。前列のほうのお客さんは、ステージに足を運んで、珍しい機械が並んでいるのを覗き込んでいます。マナーの悪い客が、携帯電話で写真を撮ろうとしていて、ホールの職員の方が慌てて駆け寄って注意をしていました。

そういえば、写真撮影に関してはもの凄くナーヴァスになっていて、まず、会場全体に館内放送でアナウンスがあった後、さらに、職員の方が1階席前方、中ごろ、後方で、口頭で同じ注意を繰り返す、という、徹底振りでした。実は、私は、メセニー関係のライブを聞くのは3回目(1回目は野外コンサートでのメセニー・グループ(チケットをくれた森田さん、有難う!!)、2回目はブラッド・メルドーとのクァルテット)だったのですが、 そのどちらでもこういうことはありませんでした。メセニーさんも、遠くから見た感じ、結構気さくそうに見えるので、こんなに神経質なのは意外です。もしかしたら、機械関係で微妙な部分があるのかもしれません。

などと考えている間に、会場の照明が落ち、待望のライブが始まりました。

最初はナイロン弦ギターでのソロで、フレーズの中に「ミヌワノ」や、「ラスト・トレイン・ホーム」などがメドレー風に織り込まれていて、たぶん、普通のライブで聴いたら、私も大喜びだったのでしょうが、オーケストリオンの演奏はどんなのだろう、と、どうしても、そちらが気になってしまいます。

2曲目はスチール弦のギター・ソロ、3曲目はピカソ・ギターを用いたソロで、どちらも普段だと素晴らしいのですが・・・(以下略(笑))、となり、あれれ、まさか、機械の調子が悪くなってソロだけです、とか言い出さないよねえ、と、ほのかに心配になり始めたころ、次に、機械を交えて、と、オーケストリオンのシンバルや、機械のベースで演奏したりし始めました。それでも、これだけならば、べつにリズム・マシーンと大して変わらないよなあ、と、不満になり始めたころ、やおら、ステージのバックにかけられていた布が取り払われて、オーケストリオンがフルに鳴り、アップテンポの曲が始まりました。

メセニーさん、引っ張りますねえ(笑)。

そこからは、CD「オーケストリオン」のナンバーを立て続けに演奏し、会場も盛り上がりを見せはじめました。メセニーさんも、「オーケストリオン」のプロジェクトに期するところがあり、また、このプロジェクトが順調に進んで充実しているようで、いつになくMCも多く、自分の意図や、このプロジェクトの意義について熱く語っていました。

強いて言うならば、パーカッションなどで繊細な歌わせ方ができないなあ、やっぱり機械だなあ、と思ってしまうところがあったのですが、それにしてもなかなかなサウンドのバランスです。自分でも意外だったのは、いかに機械が叩いていようと、生の音はいいなあ、と思えてしまったことです。実際に聴く前は、叩くのは機械だし、音はマイクで拾ってPAで流すのだから、打ち込みやサンプリングと大して変わらないかと思っていたのですが。

それで、アルバムのナンバーが一通り演奏されかけ、てっきり、そろそろ終わりだと思って、うーん、なかなか充実していたなあ、などと思っていたら、そこからが驚きの展開になりました。メセニーが、オーケストリオンを用いて、様々な即興を始めたのです。

最初にちょっと書きましたが、この機械は、演奏中に指示を出すことで、他の楽器を演奏させ、さらに、それをループさせることができるようです。そのようにしてフレーズを積み重ねて、さらにその上で即興をすることが可能になったのです。CDのライナーノーツに載っていたインタビューで、「ステージでは積極的に即興をやる」と言っていたのを読んで、どうするのかなあ、と興味があったのですが、こういうことだったのですね。

このステージの白眉は、そのように、リズム・ベース・キーボード・ヴィブラホン・ギター・・・と次々に 1コードのフレーズを重ねて、美しいサウンドのループを作り出した後で、あの、パットメセニーのトレードマークともいえるギターシンセの音で、「泣き」のフレーズを次々と繰り出した瞬間だったと思います。

もう、こうなっては、会場も大熱狂です。しかも、引っ張りに引っ張った(笑)戦術は見事に的中し、クライマックスがこのステージのピークになっていました。ステージが終わるころには、拍手の嵐で、最後は総立ちのスタンディング・オベーションです。ジャズ関係のステージは普通は静かに落ち着いていることが多いので、こんなに観客が興奮したのをみたのは初めてです。

メセニーさんも、観客を大切にする方のうえ、日本が大好きらしく、特大サービスで、何と、3曲 もアンコールにこたえてくれました。かくして、休憩なしの3時間近いステージは、興奮のうちに幕を閉じました。

もう、お腹いっぱい、大満足です。 幸せな気分で実家に向かいました。はるばる弘前から来た甲斐がありました。


そして、最後に、

メセニーさん、最近、ブログ等で文句ばっかり言って申し訳ございませんでした(笑) 。やはり、あなたは凄いです。