2010年12月26日日曜日

へレーン・ハンフ 「チャリング・クロス街 84 番地」

副題は「書物を愛する人のための本」です。これは少しクサいかなあ、という感じもしないではありませんが(笑)。

著者と、なじみの古書店の店員の方々の 20 年にわたる往復書簡集です。

題名の住所は、ロンドンのとある古書店の住所です。第2次世界大戦後まもなくのアメリカで、まだ駆け出しで売れない作家だった著者が、新聞の広告でみつけたイギリスのこの宛先の古書店に本の在庫の問い合わせをすることから、話が始まります。

当初は、書物の問い合わせに、古書店の従業員のフランクさんが答える、というだけのやりとりだったのが、段々、ちょっとしたことを書きあうようになり、著者のいかにもアメリカ人の才媛(?)らしい、才気煥発なジョークに、フランクさんが、こちらもいかにもイギリス人らしい、控えめで丁重なユーモアで答えたり、と、段々、親しさが増してゆきます。当時、イギリスは、戦後間もなくで食糧事情が安定しない折で、著者が送った肉や卵などのプレゼントが、他の従業員にもおすそ分けされたりして、フランクさんだけではなく、書店の従業員の方々や、フランクさんの妻や家族とも、手紙をやりとりし、近況を知らせあうようになり・・・、という形で、親しく手紙を書き合う人の輪が広がってゆきます。

この間、著者と古書店の人々は、一度も顔を合わせることがないのですが、それでも、ずっと交流が続いていきます。特に、著者とフランクさんの間には、単に売り手と買い手、ということではなく、お互い、本好きとして、それこそ百年の知己のように心が通じ合い、そのような信頼にこたえるべく、著者の要望に誠実に応えようとするフランクさんの姿勢が著者への手紙のはしばしに垣間見られ、とても好ましく思えます。本を愛する、ということが人の心を結ぶ縁になることが、このような事実としてあったのだ、ということを知ることができ、何だか、自分も本が好きでよかったなあ、とでもいいたい気分になります。

翻訳は江藤淳さんで、彼の評論から受ける印象からは、このようなしみじみとした小品を訳する方には思えなかったのですが、文章はとても自然で、ゆきとどいており、共感と愛着を覚えていたのだろうなあ、ということも伝わってきます。