青森県立美術館の開館5周年記念の展覧会 「光を描く印象派展」 を見に行きました。
この美術館に行くのは、たぶん3回目で、最初は杮落とし(?)の 「シャガール アレコとアメリカ亡命時代」 を見に行き、2度目は「ウィーン美術史美術館所蔵 静物画の秘密展」 だったと思います。 普段、絵を見るのが好きだと言いはっていて、東京に行くと目の色を変えて美術館を駈けずり廻るのですが、こちらへは5年間で3回、と、余り頻繁に訪れているとはいえないようです。というのも、絵画だけコンスタントに続けても集客できないのか、博物館っぽい企画も多く、単に絵が見たいだけの私にとっては、これに行きたいなあ、というような展覧会がそれほどなかったのでした。今回は、絵画で、しかも印象派、ということで、楽しみにしていたのですが、相変わらずばたばたしていて、ようやく行けるようになったのが会期終了の 10 日ほど前になってしまいました。
しばらく行っていない間に変わっていたのは、美術館へのアクセスで、新青森駅からバスで行けるようになっていました。 美術館は、青森駅よりもむしろ新青森駅に近い場所にあり、以前は、弘前方面からならば、一旦青森に出てから方角的には戻る形になるバスに 20 分ほど乗らなければならなかったので、かなり便利になりました。さらに、この期間中は、そばにある三内丸山遺跡経由で美術館に行くシャトルバスが出ているので、さらに時間が短かくてすみます。
展示されている絵は、ドイツのケルン市にあるヴァルフ・リヒャルツ美術館というところの印象派を中心としたコレクションが中心です。
印象派というのは、有名なだけに、美術館にとっては難しいだろう、と思います。巨匠のマスターピースを多数所蔵できるのは、美術館自体がよほどネーム・バリューと財力を持っているか、もしくは、大富豪であったり、リアルタイムで絵を手に入れることができたり、というような特別有利な事情のあったコレクターの寄贈を受けるか、という場合くらいでしょう(そういう意味では、国立西洋美術館の松方コレクションは本当に貴重だと思います、余談ですが)。 日本のみならずどの国でも、中堅どころや地方の美術館の大半は、そのような僥倖に預かるは難しいのではないかと思います。たまに、ああ、やっちゃったなあ、と思うのが(笑)、ビック・ネームの駄作を買い集めてしまうパターンです。以前、日本のとある地方の美術館で、パンフレットを見たら凄い名前が並んでいるので期待して入った結果、それは確かにその画家の絵なんだけどねえ、というのばかりで、何だかもやもやした気分でそこを後にしたことがあります。
今回のコレクションは、その正反対でした。モネ、セザンヌ、ルノワールといったあたりの絵は、1、2 作くらいずつしかなかったのですが、比較的地味な、ピサロ、カイユボット、シスレー、ヴェルト・モリゾ、アルマン・ギヨマン、といった人たちの、それらの画家の絵のうちでも、充実した作品が多く並んでいました。その辺に、関係者の見識、というか、絵が好きで選んでいるんだろうなあ、という姿勢みたいなものがうかがえて、とても好感が持てました。
カイユボットの作品が多かったことが特徴的で、たぶん、今まで、これほどまとめて彼の絵を見たのは初めて(笑)だと思います。また、アルフレッド・シスレーは大好きなので、よい作品が複数あったのは嬉しかったです。あと、もうひとり、アルマン・ギヨマンの作品が3点ほどあったのもちょっと驚きでした。印象派の時期、他の仕事をして生計を立てながら、このグループの一員として絵を発表していて、後年、宝くじが当たって、悠々自適となって絵に専念した、という経歴の持ち主で、力強い、大胆な独特の描線が特徴的で、後のフォービズムにも影響を与えたらしいのですが、いかんせん、(少なくとも日本では)名前がメジャーではないのからなのか、印象派系の展覧会でも見る機会が余りなかったのでした。改めて絵をみることができて、やっぱりいいなあ、と、感銘を新たにしました。
最初に展示リストを見たとき、有名な画家の作品が少なかったので、大半のお客さんは飽きたり、手持ち無沙汰な感じになって、だらけてるんじゃないかなあ、と、思ったのですが、会場の雰囲気はとてもよく、いい意味で意外でした。
よい絵が多かったこともあるのでしょうが、一方で、美術館に来ている方々にとっても、実際に名画を見る機会は貴重で、かなり真剣に絵をご覧になっていたのだ思います。東京などの特別展では、絵を前にしても知り合いの何とかさんの息子さんの噂話をしているご婦人方とか、で、結局有名なやつってどれなわけ?と言いながらほとんど全ての絵をチラ見だけして足早に通り過ぎていく大人とか、親が相手をしてくれないのに退屈して絵を見ているオジサン(私のことですが(笑))の向こう脛を蹴飛ばしても知らぬげに騒ぎまわっている可愛くない子ども(笑)に出くわすこともときどきあるのですが、ここでは、大人も子どもも、みな集中して絵を見つめています。親御さんが絵に夢中になっていても、お子さん達はソファーでおとなしく待っています。今まで、気軽に絵を見ることができるのはよいことだと思っていたのですが、その機会を大切にしないことに繋がってしまうということもあるのだろうか? と、ちょっと考え込んでしまうほどでした。
さらに、それぞれの絵画についての解説が非常に巧みでした。解説的な展覧会では、絵を見ないのに横の解説文を読んでいてなかなかどいてくれない人が多く(笑)、どちらかというと苦手で、この展覧会のサブタイトルが「美術館が解いた謎」となっていたのが非常に不安だったのですが、今回は、え? そうだったんだ、と、改めてもう一度じっくり絵を眺めなおすような説明が多くて感心させられました。 こんな道具で挟んで外で写生していたから、この部分の色が塗られていないんだ、とか、この絵は今ではこういう色をしているけれど画材や絵の具の変色がおきていて書いた当初は違ったんだ、とか、以前は皮製の袋に入っていた絵具がチューブ入りになったことで絵画制作が劇的に変わったんだ、など、言われてみれば、なるほどなあ、と思うような、実際に絵を制作したり、管理したりしなければ気づかないことが興味深かったです。おそらく、そのような研究は多くの美術館でなされているのだと思いますが、それが、わかりやすく、見る側の関心を惹くように、それでいて、単なるウケ狙いではなく、「絵」そのものへの理解に繋がるように、と、工夫されているのには感心させられました。それらは、やはり、ヴァルフ・リヒャルツ美術館の人々の絵に対する愛情や、絵の素晴らしさを伝いたいという情熱から来ているのでしょう。
いつも騒いでいるように、大学生の頃から毎年 10 回くらいのペースでは美術館に行っているのですが、今回のように行き届いた展覧会はそうそうお目にかかることはできません。この企画展は、イタリアやオーストリアを巡回した後、日本では青森県立美術館のみの公開なのだそうで、かなり得をした気分です。誘致しようとした方々の炯眼に敬意を表したいと思います。そして、青森県立美術館の5周年記念として素晴らしい展覧会が行えたことを心から祝福したいと思います。これからもよりよい絵を見せていただけることを期待しています。
あ、あと、この展覧会は、10 月 10 日まで行われています。行ける方はぜひ、ご覧になっておいたほうがよいと思います。