ぱらぱらと眺めていたら、これは、もしかしたら資料として面白いかも、という気になってきました。というのも、この講義を担当されていた先生は 1992 年からの学習指導要領の改訂のときに、数学科において中心的な役割を果たしておられた一人で、その改定の理念についても、時間が割かれて解説されていたのでした。
このときは、高校の数学に関して、かなり大きな変化がありました。それまで、「数学 I 」、「代数・幾何」、「基礎解析」、「微分・積分」、「確率・統計」というように、2年次以降はそれぞれ、ひとつずつの流れになっていた科目が、「数 I」、「数 II」、「数 III」、「数 A」、「数 B」 、「数 C」と、それぞれの中にいくつかの話題が点在するスタイルに分かれ、「A」、「B」、「C」 のほうは一定のルールのもとで履修する話題を選ぶ、という、いわゆる「コア&オプション」と呼ばれる方式になったのです(現行では、「数C」は「数 A」、「数B」 に組み込まれています)。
この変化に関しては当時から疑問視されている向きがありました。この変更が公になった後の「数学セミナー」などでは、批判的な意見がほとんどでした。実は、私も、以前の「代数・幾何」、「基礎解析」などの授業は話の展開が自然で、よい印象を持っていたので、どうして変えてしまうのかなあ、と疑問には思ったのでした。
ノートを見てみると、そのときのカリキュラムの基本理念として、「多様化対応」、「情報化社会への対応」、「国際化対応」が挙げられていました。科目の編成替えは、主に、この「多様化対応」にあたるもので、それまでの過程は大学に接続することを前提としていて、高校だけで数学を終える方々のことを考えていない、という考えと、あと、学力差が開いてしまっていたこと、それにより学習意欲にも隔たりができてしまっていたことへの対策をたてなければということなのだと思います。この先生は、参考書を監修したり、ラジオの数学講座をなさったりしていたので、それまで教育に携わってこられた数学者とは、違った角度から見た危機感を感じておられたのかもしれません。
それでも、当時の私は講義を聞きながら、分からないながらも、いくつかのクエスチョンマークが頭の中に点灯していました。ひとつは、モジュールに分けたとしても、最終的には関連付けられ体系化されなければ数学とはいえないだろう、ということです。高校以降数学を習わない方にとって、ぶつ切りになった話題の集まりが最後に得た数学の姿っていうのもどうなのかなあ、とは思ったのです。そのときの先生のお話では、そこは現場で工夫してほしい、というニュアンスだったと思うのですが、それで、さらに不思議な気持ちになった覚えがあります。というのは、その数時間前の講義で、いわゆる「数学教育の現代化」が論じられていて、問題点のひとつとして、現場の先生方に現代数学が浸透していなかったことが挙げられていたのです。本当にそうだとしたら、今の数学の体系を理解していないのに、自分で教科の体系をつくれ、というのは、ずいぶん無理な話じゃないのかなあ、と、感じたのです。
もうひとつ、大学進学する方にとっては、それ以降の準備、ということもあります。大学での授業で必要とされる予備知識の前提はどうしてもあります。これは単に大学で教えやすいから、というだけではなく、大学卒業時に必要とされる素養から逆算するとどうしてもそれくらいは必要、という基準でもあります。さらに、もちろん、大学入試をどうするか、ということも考えなければなりません。この件に関しても、講義では、「多様化」は数学教育においては急務の問題なのだから、入試もこの指導要領に沿った方法を考えてゆくべきだ、というような論調で語られていたのではないかと思います(もう、かなり前のことで記憶が定かではないので、間違っているかもしれませんが )。それで、入試だけならそうかもしれないけど、結局、大学での講義に必要な知識はある程度揃っていないと、そこからの教育が成り立たないのだし、入試を多様化したとしても、入学までに足りない分を勉強しておけ、となるのだったら、いっそ、入試科目に入れてしまっても大して変わらないだろうし、そうしたら、多様化といっても有名無実になるのじゃないかなあ、というようなことをぼんやりと感じたのでした。
その後、大学入試に関しては、理系が「数II・数C」まで、文系が「数 II ・B」まで、というくらいのざっくりとした分け方が大半になっただけで、センター入試からして、「数 I・A」と「数 II ・B」の受験者が圧倒的多数です。結局、それに必要な分は勉強しなければならなくなります。大学進学希望者の方々が当時4割くらい、現在は5割程度なのですが、かといって、大学に進学しない方々と全く別のクラスで授業を受けている場合だけではないでしょうから、普通高校のかなりの割合のクラスでは、進学希望の方が含まれていて、大学進学や入試を前提とした授業が行われることになるのだと思います。 多様化に当たることは十分に行われているのか、と、不思議に思います。
もちろん、高校の先生方の工夫によって、体系的に授業がなされているところもあるのでしょうが、その場合でも、ぶつ切りになった科目構成という足かせがついてしまっている分、困難さが増しているのではないかと思います。それまでは、少なくとも形式的には全国共通で保持されていた体系性をぶつ切りにして得たものは何だったのかなあ、と考えなくもありません。
その後、大学入試に関しては、理系が「数II・数C」まで、文系が「数 II ・B」まで、というくらいのざっくりとした分け方が大半になっただけで、センター入試からして、「数 I・A」と「数 II ・B」の受験者が圧倒的多数です。結局、それに必要な分は勉強しなければならなくなります。大学進学希望者の方々が当時4割くらい、現在は5割程度なのですが、かといって、大学に進学しない方々と全く別のクラスで授業を受けている場合だけではないでしょうから、普通高校のかなりの割合のクラスでは、進学希望の方が含まれていて、大学進学や入試を前提とした授業が行われることになるのだと思います。 多様化に当たることは十分に行われているのか、と、不思議に思います。
もちろん、高校の先生方の工夫によって、体系的に授業がなされているところもあるのでしょうが、その場合でも、ぶつ切りになった科目構成という足かせがついてしまっている分、困難さが増しているのではないかと思います。それまでは、少なくとも形式的には全国共通で保持されていた体系性をぶつ切りにして得たものは何だったのかなあ、と考えなくもありません。
トシをとると、自分が勉強したときのカリキュラムがよかった、と、考える傾向があるみたいなので、そういうノスタルジーならばよいのですが、どうも、それだけではないのではないか、と、思ったりもしています。