2012年5月19日土曜日

たぶん残らない工夫

忙しいときほど現実逃避に走りたがるもので、本来ならば、やや後になってからやってもよいはずの行列の講義ノートを書き換えました。何年か前に連立1次方程式のはきだし法をまとめなおして以来、そちらは比較的スムーズに話せるのですが,例年、行列式の導入が長くなってしまうのが気になっていたのでした。

今までは、逆行列の「分母」として2×2行列の行列式を定義して正規化条件と多重線型性や交代性を導入し、その一般化を満たす行列から数への写像として n × n 行列の行列式を定義したあと、展開して置換を用いる表示を導き、行列式の性質を示して、具体的な計算をしていました。長い説明をしないと大事な性質が導けない上、あまり詳しく議論できない置換の性質を使わないと行列の積や転置行列の行列式の話ができないので、そこに至るまでの議論が不安定で、かつ、重たい感じがしていました。

2×2行列での導入で多重線型性や交代性を感覚的に把握するには、幾何的にしたほうがよいかなあ、と思い、方向によって符号が変わるところを何となくごまかしながら(笑)、 列ベクトルのなす平行四辺形の面積から入ることにして、また、記号が増やさず全体の見通しをよくするために行列式の計算過程も基本変形で書くことにしました。それならば基本変形を使って行列式の性質を先に導いておけばよいのではないかと思い、そのように書いてあるテキストはないかと、その辺にある線型代数の本7,8冊をあたってみたのですが、大抵は置換や符号で行列式を定義し、その表示から性質を導いていました。最初から証明を書きくだすのはしんどいかなあ、と、ぐずぐずしていたとき、そういえば学生のときに使った有馬先生のテキストは置換を用いた表示をほとんど使わなかったはずだった、と、思い出して眺めてみたら、そこに全部きちんと書いてありました(笑) 灯台下暗し、というか、如何に自分が勉強したテキストを理解していなかったか、ということではあるのですが(笑)

大学生のころはそんなところに気が廻らなかったのですが、有馬哲先生の「線型代数入門」(東京図書)や、小島順先生の「線型代数学」(日本放送出版協会)は、骨があって、それでいて教育的な配慮もされていて、実にいい本だなあ、と最近になってようやくわかるようになってきました。どちらの本もとうに書店から消え去っていて、今では入手困難でしょう。昨今は、どうしても、半期15コマの講義用のテキスト、という縛りができてしまうのか、本格的で個性的な線型代数の本があまり出回らなくなってしまったのは残念です。

線型独立や線型従属を扱う時間がないので、有馬先生のテキストでそれを使っているところを書き直したり、置換や余因子展開の話にうまくつなげようと画策したりして、何とか筋が通るようにまとめました。もっとスマートに説明したいところですが、それでも、行列式の大事な性質を前のほうに持ってくることができたので、少しは聞きやすくなったのではないかと思います。

とはいうものの、こんなことをぐずぐずと考えても、効果があるのかは別の話で(笑)、この前、講座の先生とお話していたら、いやあ、この前のゼミで発表した子(私が行列の講義を担当した方)が、逆行列を求めるのに、いきなり余因子を計算し始めちゃってさあ、はきだし法を使えばいいのにねえ、とおっしゃっていました(笑) 自称比較的スムーズなニシザワセンセイ渾身のはき出し法の解説といってもせいぜいそんなもので、今日、ぐじぐじしながら仕上げた内容を講義で力説しても、どこにも残らず、虚空に消え去ることでしょう(笑)

まあ、自分の勉強していたテキストの内容を 20 年も忘れていた私も、人のことを言えた義理ではありませんが(笑)

教える工夫というのは、たいてい、そんなものなのかもしれません(笑)