以前、アルバムの感想を書いたことがありますが、ミック・グッドリックは、ジャズ・ギタリストで、バークリー音楽院の教授、という方で、この本は、その教育の経験を凝縮して書かれた本なのだろうと思います。
あらかじめ白状しておきますが、私自身、ジャズを聴くのは好きで、ギターも少しはかじっているのですが、コードの理論については全くと言ってよいほど知りません。ちょっとはわかると楽しいのかな、と、思って、理論書を眺めたこともあるのですが、結局、ディミニッシュって何? トライアドってどういうこと? ドリアンって果物?(笑) みたいな状態のままです。 才能がないのを認めるのも癪なので、やっぱりああいうものは集中して覚えて、繰り返し実践して身につけなければならないのだろうから、老後の楽しみにとっておこう、と思うことにしています(笑) こうやって後回しにしていることが多いので私の老後は 300 年くらいあっても足りそうにないのですが(笑)
そういうわけで、世界最高峰のジャズ・ギターを教える、しかも、著者自身が、「この本で提示されている練習のマテリアルをすべてこなすためには、少なくとも人生数回分の時間が必要です」と書いているような、練習の仕方を考える上でのアイディアの宝庫のようなこの本は、私にとっては、まさに「猫に小判」を絵に描いてワックスで磨いたようなものです(笑) それでも、この本を眺めて楽しくなったのは、後半のかなりの部分が、練習や演奏(そしてさらには人生?)に対する心構え、処し方、考え方みたいなことに関する文章で、何ともいい味を出しているのです。何せ、ギターの即興演奏に関する解説書のはずなのに、
◎数少ない価値のあるもののひとつが、ユーモアです。なんて、文章が出てくるのですから。
「演奏に飽きてしまったら?」 というセクションなど、
◎あなたが今取り組んでいる曲を演奏してみましょう。ただし、半分のスピードで、です。(中略) 遅いテンポならば、他のアイディアを考えたり、聴いたり、感じたりする時間(またはスペース)は十分にあるからです。という、見事さ(!!)です。 さらに傑作なのが、「諸々に関する短いテーマ」という章で、ここには、
◎自分自身に問いかけましょう。”音楽において本当に重要な何かを、私は忘れてしまったのだろうか?”
◎一片(もう少し多めでも可)のパンを、鳩、アヒル、カモメ、などなど、いろいろな種類の鳥にあげてみましょう。
◎あなたが二度とギターを弾くことができない時間、もしくは環境を想像してみましょう。
◎長い散歩に出ましょう。
◎泣きましょう。
◎1~7日間、ギターを弾くのをやめるか、もしくは音楽を聴くのをやめてみましょう。
◎1~7日間、ギターを弾くのをやめて、音楽をたくさん聴きましょう。
◎弦を変えて、ギターを磨きましょう。
◎返品かリサイクルのために、ギターをリペアに出しましょう。
◎あなたがやるべきことは、それをすべて忘れて、ただ音楽を演奏することです。などという短文が 10 ページ以上にわたって並んでいます。
◎何かが身に付くまで、私たちはそれをどうやって学んでいるか知りません。しかし、あなたは学べるということを知っています(どうやって学ぶかということを、知る必要が本当にあるのでしょうか?)
◎ ”あなた自身の道”を見つけることが難しいのは、望んでも望まなくても、あなたは”すでに”その道の上にいるからです!高い確率で(それを知っていても知らなくても)、あなたはそこから二度と出られないのです!だから、”見つけること”がとても難しいのです。
◎自分の演奏を好きになれない時は、演奏内容を変える代わりに態度を変えて下さい。もしくは、好きなことを演奏する代わりに、演奏することを好きになるようにしてください。態度が変われば、演奏内容も変わるのです!
◎個性を本物にするためには、多くのことを自分に対して素直に正直に行う必要があります。自分に対して素直で正直であることは、簡単ではありません。あなたは自分自身に、それをどうやってやるかを教えなければならないのです。自分自身の”声”を聞くことが楽しいとは限りません。その”声”が聞こえていても、あなたはそれに気づかないかもしれません。
ここまで来てしまうと、ほとんど禅問答の世界で、心構え、というより、境地、とでもいったほうがふさわしく思えてきます。 多くの優秀で前途有望なミュージシャンが、沢山の方法論を学んだ後、それにがんじがらめになるのではなく、それらを踏まえて自由な精神を得ることができるように、「格を出でて初めて自在を得べし」 というべき時に、こういう人がいる、というのは、やはり凄いなあ、と思います。