「調理師免許なく家庭科教員なれず
本県公立高校の家庭科教員になるには、教員免許に加え調理師免許も必要-。今年7月に一次試験が行われる2011年度県教員採用試験で、高校家庭科の受験資格に新たに調理師免許が必要とされたため、学生や臨時採用の講師らが「門前払い」されるケースが出ている。県内で高校家庭科の教員養成課程がある弘前大学と東北女子大学の学生や大学側は「寝耳に水で、ありえない」「県教委は再考し、撤回してほしい」と反発を強めている。」(東奥日報 2010年5月16日(日) )4月下旬に、青森県の教員採用試験の実施要項が公開されたのですが、高校の家庭科の教員の受験資格が、
「高等学校家庭については、「家庭」の高等学校教諭免許状を有する者又は平成 23 年 4 月までに当該普通免許状を取得する見込みの者であり、かつ、調理師の資格を有する者又は平成 23 年 4 月 1 日までに当該資格を取得する見込みの者」 (太字も原文のまま)
となっているのです。私自身は、青森県教育委員会の説明会が勤務する大学であったときにこの件を聞きました。つまり、
調理師の免許を持っていないと、青森県の高校の家庭を受験できない、
ということです。これが、何の前触れもなく発表されたのです。このようになった理由というのは、県内にひとつある、調理師養成施設として指定されている高等学校の教諭になる可能性があるから、ということのようです。とても驚きました。そして、酷い話だと思いました。
類似の施設を持つ他県の高等学校では、そのような場合には、赴任する先生が研修を受けて、その資格を取得するようにしているのだそうです。その施設の教諭の確保はそれで可能なだけだと思うのですが。
私も教育学部にいながら迂闊にも初めて知ったのですが、新聞によると、教員採用試験の受験概要というのは、実際は県教育長の専決事項なのだそうです。受験資格を独断で決められるということなのでしょうね。それなら、教員になるためにどのような教育が必要なのか、と、大議論をして、あれを何単位、これを何単位、・・・、と免許法で定めているのは、いったい何のためなのかなあ、と思ってしまいますが。
まずは、「そもそも」論なのですが、教員免許を交付しているのは、他でもない、都道府県の教育委員会のはずです。私は、高等学校の数学教諭の免許を持っているのですが、卒業大学のあった東京都の教育委員会からのものになっています。青森県の大学で、家庭の免許を取得する方は、ほかならぬ青森県教育委員会から、大学で「家庭科の教員になるのに必要な科目を受講した」ことを認められて交付されるのです。同じ年度だというのに、いざ採用試験になるとそれでは不足だ、というわけです。教員免許の交付とは単なる形式で意味のないことだというのでしょうか。ご自身の出す教員免許状はそんなに不十分なのでしょうか。
そして、調理師免許という資格ですが、これは、「専門学校に1年通う」か、もしくは、「飲食店に2年以上勤めてペーパーテストに合格」しないと取得できない資格だそうです。つまり、通常の大学の卒業予定のかたはもちろん、卒業後に臨時任用講師をしている方のほとんどが持っていない資格でしょう。これをそれまでに何の予告もせずに、試験の3ヶ月前に宣告する、ということは、高校の家庭を受験しようと思っていた学生さん達、講師の方々に、準備の余地を全く与えないということです。受験者のほとんどをシャットアウトすることに他なりません。
私のいる学部の家政関係の講座にも、食物の他に、被服、住居、保育、家庭科教育の専門の先生がいらっしゃいます。家庭科の先生になるためのそのような広範な知識、技能のうち、調理だけの、しかも通常教育と関係があるとされていない特殊な資格だけをもとに機会を定め、本来必要な知識・技能が備わっている可能性が十分にある志望者にチャンスすら与えないということは、真の目的であるべき、教員としての資質の考慮とまったく異なる試験がなされるということです。その選抜が将来の青森県の高校生への教育に対し、有意義な結果をもたらすとは到底考えられません。
私の身にひきつけて例えると、「県内でコンピュータの資格を取らせる高校がひとつあるから、数学の教諭の受験は情報処理の何とかという資格を取った人しか認めません」ということを藪から棒に決められた、というようなことなのでしょう。いくら一生懸命、将来教員になることを考えて学生さんを育てても、それとは全然関係ないことで、彼ら、彼女らの志望が閉ざされてしまう、ということを考えると、本当にぞっとしてしまいます。そして、数学の知識、教え方の技量と全然関係のない選考を経た方々に教わった学生さんが自分のところに入ってくるならば、やれやれ、勘弁してくれよ、と、思ってしまいます。
関係の方々の懸念、そして、何よりも、これで、今年のチャンスが閉ざされてしまった学生さん達、講師の方々の無念は察するに余りあります。
自らも教員であった方々が関係しているはずなのに、どうしてこういう酷いことになっているのでしょうか。ここに住むものとして、今までは、青森県に愛着を持つ学生さん達の気持ちをできるだけ尊重するようにしてきたのですが、これからは、何が起こるかわからない、青森県を志望させるのは危険だ、ということを前提にしたほうがよいのかもしれません。悲しいことですが。
(後記) 青森県教育委員会は、騒動が大きくなってきたのを受けて、次の声明を出しました。もちろん、何の理解も納得もできません。「生徒の進路志望の実現」という美名で、自らの思慮の浅い判断を飾らないでいただきたいと思います。
「
県立学校の中には、所定の単位を取得すれば、卒業と同時に調理師の資格を得ることができる調理師養成施設として指定されている高等学校があり、指定の基準の一つとして調理師法施行規則第6条第6号においては、「専任教員のうち1人以上は調理師であること」と規定されております。
県教育委員会と いたしましては、調理師資格を取りたいという生徒の進路志望実現のためには、調理師養成施設の機能を将来的にも維持していく必要があることから、調理師資格を有する教員を補充するものであります。また、教員の人事異動の固定化を避けるなどの観点からも、本年度の教員採用候補者選考試験は、受験資格に調理師資格を付して実施することとしたものであります。
なお、教員採用候補者選考試験の募集教科・科目、人数、資格等の実施方法については、前年度の 教員の人事異動結果や当該年度における退職見込数などの様々なことを勘案した上で、毎年度「青森県公立学校教員採用候補者選考試験実施要項」を決定し、4 月下旬に公表しているところであります。このため、次年度以降の教員採用候補者選考試験の実施方法等を予め決定し、事前にお知らせすることは、困難である ことを御理解願います。
今後、教員採用候補者選考試験を実施していくにあたりましては、今年度の実施状況や選考結果を踏まえながら、必 要な人材を確保するための選考方法等について検討し、生徒の進路志望実現のため、よりよい教員採用候補者選考試験となるように努めて参りますので、御理解 くださるようお願いします。」