スティーブ・キューンって不思議なピアニストだなあ、と思っています。今や、かつての過小評価を払拭し、オーソドックスなジャズ・ピアノではトップクラスの活躍をしているといっても過言ではないのですが、その活躍ぶりが何とも独特なのです。
私が持っているここ 10 年くらいのアルバムでも、自身の代表曲を中心にストリング・アンサンブルをバックに演奏した 2000 年録音の "Promises Kept"(ECM)があり、 ロン・カーター(b)、アル・フォスター(ds) とのトリオによる 2006 年録音の "Live at Birdland"(Blue Note) があり、コルトレーンへのオマージュである、2008 年録音の "Mostly Coltrane"(ECM) があります。これらのアルバムとともに、本作へと続くビーナス・レコードへの録音も断続的に行われています。
昔ほどレーベルのカラーは鮮明ではないのかもしれませんが、それでも、ECM とブルーノートとビーナスという全く違った方向に典型的な性格のレーベルに並行してレコーディングして、それぞれのカラーに完全にフィットした、バラエティに富んだ演奏をしながらも、本人らしい部分をきっちりと残しているのです。それでいて、どのアルバムにも、変幻自在ぶりや、新しいスタイルへの挑戦、というような高揚感や悲壮感を「売り」にする、という気配が全くありません。むしろ、一歩引いて醒めた物腰で、ほら、こんなとき、君達は僕にこう弾いてほしいんだろう?とでも言っているような感じさえします。
前にも書いたかもしれませんが、実は、ビーナス・レコードの、いかにも日本製作らしい、スタンダードを情緒たっぷりに懐メロムード歌謡風に、といわんばかりの(・・・というと偏見ですか?(笑))カラーは、どちらかというと苦手で、このレーベルからのスティーブ・キューンのアルバムは購入したことが無かったのですが、今回は別です。ミシェル・ルグランは、私にとって、バート・バカラックとジョニー・マンデルと並んで、もっとも好きなソングライターの一人なのです。好きなアーティストが彼の曲を演奏しているというだけでもそのアルバムが気になってしまうほどなのに、まるまる一枚、ミシェル・ルグランの曲、というのを見過ごすわけにはいきません。
相変わらずタッチが美しく、冷静にコントロールされていて、流麗でも過剰に華麗にならず、そつがなくても一癖ありげな(笑)部分を秘めているのは、今まで聴いてきたとおりですが、私の知っている他の録音に比べ、スムーズでノリがよいように思います。それが、ミシェル・ルグランの、気品があり、かつ親しみやすい曲調とあいまって、聴きやすいながらも味わい深いアルバムになっていると思います。