2010年12月29日水曜日

Brian Wilson "Reimagines Gershwin"

ブライアン・ウィルソンの前作 "Lucky Old Sun" は傑作でした。自らの心境が投影された南カリフォルニアの風景が、美しいハーモニーで歌われるのを聴いて、今でも、ポピュラー・ミュージックが、単なる商業的なイメージではない、真に迫る何かを人の心に響かせることができるのだ、ということが実感できたような気がしました。

何よりも驚異なのは、ブライアン・ウィルソン自身は、全く変わっていず、流行のスタイルを加えて、などということもなく、自然体で心情を表現しただけで素晴らしい作品ができあがってしまった、ということです。彼の音楽が時代を越えている、というべきなのか、音楽の新鮮さというのは、アーティストの内面によるもので、表面的なスタイルではないのだ、というべきなのかはわかりませんが。 

そして、期待された次の作品である本作は、何と、ガーシュイン曲集でした。夏に大阪に出かけたときに購入しました。

CDショップでは、ジャズのコーナーにも置いてあって、最初に見つけたのはそちらだったのですが、にわかにはブライアン・ウィルソンの新作とは信じられず、もしかしたら、同姓同名のプレイヤーだったりしないかと、ロックの彼ののコーナーに行って、同じアルバムがあることを確認してから購入しました(笑)。

充実していて、やりたいことが沢山あるのだなあ、と、感心させられます。もしかしたら、失った時間を取り戻そうとしているのかもしれません。

前にも少しお話した、ドミニク・スライア著 「スマイル」という本のなかで、アルバム "SMiLE" の作詞を担当したヴァン・ダイク・パークスが、アルバム作成後、ブライアンについて

「(前略) ・・・ 彼はチャック・ベリーというよりはホーギー・カーマイケルに近い。《スマイル》でブライアンが僕に求めたのは、彼の経験外にあるものを持ち込むことだった。でもより深い部分では、彼も、僕も、二人ともガーシュインとかそういう部分を経験として持っているんだ。僕らには同じものが見えていた。なぜその部分をもっと知ろうとしないのだろうと不思議だった。《スマイル》はまさにその試みだったんだよ。」

と、伝説のアルバム "SMiLE" に関して語ったくだりがあるのを思い出しました。

今回のアルバムでは、ブライアン・ウィルソンは、自らをロックンロールというだけでなく、アメリカのポピュラー・ミュージック全体の系譜の中で捉えなおそうとしているのかもしれない、と、ちょっと、深読みしてしまったりもするのですが。

ディスクをトレイに置くまで、ブライアン・ウィルソンがガーシュインを歌ったら、きっと、こうなるだろうなあ、と想像していた、まさにそのような音楽で、考え抜かれた構成、練り上げられた編曲、美しいハーモニーで、おなじみの曲が料理されています。ガーシュウイン・ナンバーをロックバンドで演奏してしまうと、ひょっとすると、軽くなったり、うるさくなったりして、しっとりとした情感を出すのは難しいんじゃないかなあ、と、ちょっと心配だったのですが、さすがにそんなレベルは軽くクリアしていました。 "I Love You, Porgy" でのブライアンの深みのあるボーカルには、特に、胸を打たれました。

唯一、難をいえば、「期待通り」であって、「期待を遥かに超えた」とはならなかったことでしょうか。でも、それはないものねだりというべきでしょうね。何しろ、「ブライアン・ウィルソンが、ガーシュインの曲を歌う」ということだけで、私の期待は途方もなく大きいものになっていたのですから。